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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)227号 判決

一 原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。右争いのない審決の理由の要点によれば、審決は、引用例一及び引用例二記載の技術を半導体等製造の光学マスクに応用することは、引用例三の存在を考慮すれば、なんら困難ではない旨判断しているので、まず、引用例三の関係について考察する。

1 本願発明における金属皮膜について

成立に争いのない甲第四号証によれば、本願発明は、微細な構造を有し、特に正確なパターンの形成が要求される半導体装置及び集積回路の製造方法に関するものであることが認められる。そして、同号証の記載特に「現像した写真板により形成したマスクはこのマスク上のパターンにフリンジ即ち拡散した端縁ができこれが耐食膜にそのまゝ写し取られる欠点がある。しかも感光乳剤による映像のフリンジは耐食膜上のフリンジより一層大きいのが普通である。」(一頁2欄一六ないし二〇行)及び「写真乳剤マスクの場合のフリンジは透明部から不透明部へ変る部分であるが、本発明方法に使用する耐食膜ではフリンジは耐食膜が無い部分から耐食膜がもとの厚さにある区域までの部分である。このことは腐食されたクロム層の端縁は耐食膜のフリンジの内端縁に合致しており、クロムのパターンには認知し得るフリンジが無いことを意味している。」(二頁3欄一一ないし一八行)との各記載によれば、「半導体の表面を感光ラツカ層(又は耐食膜)で被覆し、パターン又は光学マスクを通してこのラツカ層を露光し、使用したラツカ層の組成によりラツカ層の未露光の部分又は露光した部分を除去し、次にこの物品の除去した表面部分から材料を除去するか又はこの部分に材料を被着した後、所要に応じ物品上に尚存在するラツカ層の全部又は一部を除去する」(同号証一頁1欄二三ないし三〇行参照)という通常行われている方法において、従来用いられていた写真乳剤マスクの場合には、「フリンジ」(映像の輪郭を不鮮明にする半陰影。同号証一頁2欄二一、二二行参照)は、透明部から不透明部へ変る部分となり、これを用いて半導体上の感光ラツカ層にパターンを写すと、右「フリンジ」は、そのまま写され、パターンの輪郭を不鮮明にしていたという欠点があつたので、本願発明はこれを解消することを技術的課題とし、光学マスクとして金属皮膜を利用したものを用いることにより、「フリンジ」を、金属皮膜上の耐食膜において、それの無い部分からもとの厚さの部分までの区域となるようにし、これにより金属皮膜を腐食させると、腐食された金属の端縁は耐食膜の内端縁と合致することになり、結局、金属皮膜のパターンには、認知しうる「フリンジ」が生ぜず、半導体上の感光ラツカ層に「フリンジ」の影響のない明確な輪郭の映像を得ることができるようにしたものであることが認められる。

2 引用例三における金属皮膜について

一方、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例三には、通常の印刷技術を対象とするものではあるが、パターン作製のための光学マスクとして金属皮膜を利用したものが示されていることが認められる。そして、同号証の記載特にその「プロセス乾板は精密腐食により網点の部分減力を行わんとすれば網点自体の濃度の減少を来し焼付不能となる……不都合あり。本発明は叙上の不都合を除去せんとするものにして其の構想は金属にて成る網点を形造り以て部分腐食により網点自身の不透明度を減少せしむることなく網点の面積を小ならしめんとするにあり」(一頁左欄二五行ないし右欄三行)及び「本発明の透明網陽板は其の部分的腐食修正に当り網点は周囲のみより腐食せられ其の各面積を縮小せらるゝのみにて而も各網点は不透明の金属にて成れるを以て其の濃度に変化を取(受の誤記と認める。)くることなく従て鮮鋭なる平凹版の製版に好適なり本発明に於て不透明薄膜として金属を使用せるは金属が其の周囲よりの腐食作用に最も好都合の資材なるが為めなり」(一頁右欄一六ないし二三行)との各記載によれば、引用例三記載の技術は、製版用透明網陽板においてマスク自身の厳密修正をする場合、金属を用いない従来のこの種のものでは、厳密修正のために精密腐食させると、網点自体の濃度の減少を来し、焼き付けが不能となる欠点があつたので、これを解消することを技術的課題とし、金属皮膜を用いることにより、網点自体の濃度(不透明性)は減少させることなく、網点の面積のみを小さくして厳密修正ができるようにしたものであることが認められる。

3 本願発明と引用例三の対比

以上によれば、本願発明と引用例三記載の技術とは、いずれもパターン作製のために使用する金属皮膜を利用した光学マスクに関するものである点では共通するものの、半導体及び集積回路の製造ではマスクの厳密修正は行われず、フリンジの影響を除くことは半導体及び集積回路のような微細なパターンではじめて問題となるものであることは前掲各証拠に照らし明らかであるから、両者が金属皮膜の利用により解決した技術的課題は全く異なるものであるといわなければならない。したがつて、当業者が、後者における金属皮膜を利用した光学マスクを、前者における半導体等の輪郭等において極度の明確さが要求される微細な構造のパターン作製のための利用に想到することは、必ずしも容易とみることはできないから、引用例一及び引用例二に審決認定の技術の記載があるとしても、これらと引用例三記載の技術とから本願発明が容易に発明できたとした審決の判断は誤りとしなければならない。

なお、審決は半導体製造技術が自他いずれの産業分野であるかを問わず、あらゆる先行技術を吸収して発展して来たものであり、特にパターン形成技術においては印刷技術に負うところが大であつたことを理由に、引用例三をも含む各引用例記載の技術を、精度においては差があつても、半導体製造用の光学マスクに転用することは容易であるとしているが、本願発明と引用例三記載の技術とでは、前記のとおり、その解決した技術的課題において全く異なるものであるから、審決の右所論も失当といわなければならない。

そして、審決における右判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、審決は、違法としてこれを取り消すべきものである。

三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

半導体装置及び集積回路の製造段階においてこの半導体又は集積回路に感光ラツカ層を被着し、次に光学マスクを介してこの感光ラツカ層を露光し、次にこの感光ラツカ層を現像し、この場合周期律表の第Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ及びⅧ族元素中の遷移元素から選択したクロムが好適な少なくとも一個の金属の蒸着金属被膜を有する透明基材から成り光学腐食したパターンを有する光学マスクを前記光学マスクとして使用することを特徴とする半導体装置及び集積回路の製造方法。

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